
法然上人 一刀十念御自作座像(西福寺御影堂御本尊)
【令和7年2月】
「おかげさまと素直に喜べる人は幸せ」
以前、2人の子供さんを連れたご夫婦が、突然訪ねて来られて「何とかお勤めをしてください」と仰るんです。存じ上げぬ方であり、「如何されましたか」とお尋ねしましたら、「一昨年父が93歳で亡くなり、今年母が92歳で後を追うように亡くなりました。そうしましたら、家内が乳がんで病に倒れ、家の中はガタガタです。商売も傾いて巧くいきません。子供たちも学校にいかなくなったりして、我が家は不幸続きでサッパリなんです。
実は・・・ある方に見ていただいたら、『何代か前の水子の供養がしてないからですよ』と言われ、藁おもつかむ思いで参りました。先祖や水子の祟りじゃないでしょうか、佛罰でしょうか。」こう仰る物ですから、「あなたは考え違いも甚だしいですね。親が亡くなったのも、奥さんが病気になったのも、商売が巧くいかないのも、子供たちがグレタのも、みんな先祖のせいですか。冗談じゃないですよ。先祖にとって子孫は大事な子供と同じですよ。あなたはこの子供たちが大事なんでしょ。同じように先祖にとって子孫は可愛い大事な子供なんです。何で罰を当てるんですか。諸行無常の世界ですよ、我々は生老病死。生を受けた者は、老病死から逃れる事は出来ないんですよ。必ず受けねばならぬ縁なんです。
御両親が亡くなられた事は悲しいことですが、立派に天寿を真っ当されたんじゃないですか。そして人は皆、病気になるんです。だから今を如何に生きるかなんですよ。商売がかたむいたのも先祖のせいですか・・・皆、人のせいにして、とんでもない話です。ましてや佛は抜苦与楽です。罰など与えなさる事はありません。」と厳しく申し上げたのです。
「目からウロコです。申し訳ありません、出直して参ります」と申されるので、「ごめんなさいね、判っていただいたらいいんです。先祖や親の命を頂いて生かされているんです。命の親さま御佛は、諸行無常の世の中、しっかり生きよと念じてくださっているんです。一緒にお念佛を称えて、先祖のご回向を致しましょう。」と申し上げました。其の後、家族揃ってお念佛を称えてくださいました。
諸行無常の世の中なれど、今生かされている幸せをかみしめて、おかげさまと素直に喜べる人は幸せですね。
我が宗祖法然上人は、850年前、老いも若きも、男も女も、学問が有ろうと無かろうと、全ての人が、一人も漏れることの無い、お念仏の道を行けとお示しくださったのです。佛の救いをひたすら信じ、ただ口に南無阿弥陀佛と称えたならば、必ず阿弥陀佛は救いとってくださるのです。お念佛を称える中に、諸行無常も受けねば成らぬ縁として素直に受け取ってゆく力がわいてくるのです。
難儀もお陰と噛み締めて、お念佛の中に、今を力強く生き生かさせていただきましょう。
2025年2月1日
二橋 信玄 (大原山西福寺 第51世)
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「罪は十悪五逆の者も、生ると信じて、 小罪をも、犯さじと思うべし 」